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広島地方裁判所 昭和59年(ワ)1004号 判決

主文

被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地について、原告が間寿三郎から、山口地方法務局岩国支局昭和三一年六月一一日受付第四二三一号所有権移転請求権保全仮登記に基づき、売買を原因とする所有権移転登記手続きを受けることを承諾せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文第一項と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  間寿三郎(以下、間という)は、もと別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という)を所有していた。

2  間は、昭和三一年五月一二日、細工一三との間で本件土地について売買予約をなし、山口地方法務局岩国支局同年六月一一日受付第四二三一号をもって所有権移転請求権保全仮登記を経由した。

3  間と細工一三との間の売買予約に基づく完結権は、昭和三八年一一月五日田淵ユキヨに譲渡され、同支局同月九日受付第一〇五七二号をもって所有権移転請求権保全仮登記の移転登記がなされ、更に、同人から昭和三九年三月二日井本清に譲渡されて、同支局同年四月一五日受付第四〇三八号をもってその旨移転登記がなされた。

4  井本清は昭和四一年九月一一日死亡し、同人の権利義務は井本敏子、井本福多、井本スギの相続するところとなったが、井本福多は昭和四五年一一月二三日死亡し、同人の権利義務は井本スギ、貫井シズヨ、井本賢一、井本敏子、井本康男に相続され、更に、貫井シズヨは昭和五四年九月二一日死亡し、同人の権利義務は貫井了、大畠早苗、和久山千秋に相続され、また、井本スギは昭和五五年一二月三〇日死亡し、同人の権利義務は平木キミヨ、富井初枝、村重善夫、村本美津枝、大畠早苗、和久山千秋、井本敏子、井本康男、井本賢一に相続された。

5  原告は、昭和五九年一〇月一日、井本清の右各相続人から、前記売買予約に基づく完結権を譲り受け、同支局同月一六日受付第一二六六三号をもって前記所有権移転請求権保全仮登記の移転登記を受けた。

6  間は、本件土地を譲渡担保に供し、山根正男に対し、同支局昭和三二年一月七日受付第一九号をもって所有権移転登記を経由し、その後、本件土地の所有権は転々として、昭和三六年四月一三日、被告が本件土地の所有者となった。

7  原告は、昭和五九年一〇月二〇日、間に対し、本件土地の売買に関する予約完結権を行使し、本件土地の所有者となった。

8  よって、原告は、本件土地について原告が間から右仮登記に基づき右売買を原因とする所有権移転登記手続きを受けるについて、これと矛盾する登記を有する被告に対し、右所有権移転登記手続きにつき承諾することを求める。

二  請求原因に対する認否

1  1及び2の各事実は認める。

2  3については原告主張の登記が経由されていることは認める。

3  4の原告主張の関係当事者の死亡、相続は知らない。

4  5の事実は知らない。但し、原告主張の登記が経由されていることは認める。

5  6の事実は認める。但し、間から山根正男に対する譲渡は売り渡しである。

6  7の事実は知らない。

三  抗弁

1  時効消滅

(1) 細工一三が本件土地について有していた請求権は一種の債権であるところ、同人及びその承継人は、昭和三一年六月一一日(細工一三が所有権移転請求権保全仮登記を経由した日)から原告が右権利を行使するまで二八年間以上も右権利を行使せずに経過した。

被告は、本訴において右時効消滅を援用する。

(2) 井本清(細工一三からの譲受人田淵ユキヨからの譲受人)が右権利を取得した昭和三九年四月一五日(右仮登記の移転登記経由の日)を起算日としても既に二〇年以上経過した。

被告は、本訴において右時効消滅を援用する。

2  仮登記は本登記に対抗できない。

原告の主張する予約完結権の行使は、所有権移転請求権保全仮登記の存在によって右設定者である間に本件土地につき潜在的にせよ所有権があることを前提にするものと考えられるところ、間は本件土地の所有権を既に昭和三二年八月三〇日古川渡に対し売却して完全に喪失した(その旨の所有権移転登記は同年一〇月一日に経由)。従って、同日以降、間が本件土地の所有権を有することを前提とする売買予約完結権は、これを行使するに由ない。

3  権利放棄

井本清及びその承継人らは、前記所有権移転請求権保全仮登記の移転登記経由日である昭和三九年四月一五日から原告に対する右仮登記の移転登記経由日である昭和五九年一〇月一六日まで、本件請求権(完結権)を行使しようとした形跡はないのみならず、原告に対する右権利の譲渡が無償でなされていることをも考慮すると、遅くとも昭和四九年四月一四日の消滅時効完成の時点で右権利行使の意思を放棄したものとみざるをえない。

4  権利濫用

原告は、義父に当たる間のために本件土地を無償で入手することを間と共謀し、所有権移転請求権保全仮登記があることを奇貨として、井本清の承継人らに右権利行使の意思がないことに乗じ、無償でこれを譲り受けて右仮登記の移転登記を経由し、被告が本件土地を取得するために出捐した金銭等について何らの補償もせず、被告の正当な本件土地の所有権を侵奪せんとするものである。

5  公序良俗違反

義父子の関係にある間が原告から本件土地の代金を貰うということは虚偽の主張と認めるべく、間は、無償同様で本件土地を取り戻すために原告を利用しているものである。

他方、被告は、昭和三六年四月一三日、本件土地を代金一四〇万円で買い受けたものである。

6  仮処分中の予約完結権の譲渡

細工一三は前記所有権移転請求権について岩国簡易裁判所から処分禁止の仮処分決定を得、昭和三八年一一月二一日、その旨の仮処分登記が経由されたので、昭和三九年三月二日になされた井本清に対する右予約完結権の譲渡は右仮処分決定に違反し無効である。

もっとも、右の仮処分申請は昭和五三年四月二七日取り下げられたが、これによって右仮処分決定違反の右譲受行為の効果が復活することはない。

7  取得時効

(1) 被告は、前前所有者山根正男から本件土地を買い受けた前所有者古川渡から、本件土地を買い受けてその旨の所有権移転登記を経由し占有を承継した。

山根正男は、売買により、昭和三一年一二月二八日から、占有の始め過失なく本件土地の占有を始めた。

被告は、本訴において山根正男及び古川渡の右各占有を併せて主張して右取得時効を援用する。

(2) 仮に右(1)が認められなくても、被告は、昭和三六年四月一三日、前所有者古川渡から本件土地を買い受け、占有の始め過失なく本件土地の占有を始めた。

被告は、本訴において右取得時効を援用する。

四  抗弁に対する認否

いずれも争う。1については、売買予約の当事者は予約権利者と予約義務者とであるから、その目的物について右予約の仮登記後に所有権移転登記を経由した被告は、予約完結権の時効消滅を援用することができない。3及び4のうち、原告が井本清の相続人から本件土地についての売買予約完結権を無償で譲り受けたことは認める。

第三  証拠(省略)

(別紙)

物件目録

所在 玖珂郡和木町和木三丁目

地番 一二八番

地目 宅地

地積 二二六・四三平方メートル

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